思考のクセとは?認知の歪みを正して視野を広くする方法

心理

私たちは日々、様々なことを考えながら生活しています。その中で、「考え方のパターン」が習慣のように繰り返されることがあります。これを心理学では「認知のゆがみ」や「思考のクセ」と呼びます。

このような思考のクセは誰にでも起こる自然な現象です。しかし、それに気づかないまま放置していると、ストレスや不安によって自己評価の低下につながることや、日常生活に大きな影響をもたらすことがあります。

この記事では、次のような悩みを持つ人に役立つ記事となっています。

  • 「〇〇しなければならない」「〇〇すべき」が常に頭にある
  • あの人から「〇〇と思われているに違いない」と決めつけてしまう
  • 上手くいかなかったのは私のせいなどと自分を責めてしまう
  • 思考のクセに気づいて、「治したい」と思っている

思考のクセを理解し、緩めていくことで、様々な視点から物ごと考えられるようになるための参考になれば幸いです。

思考のクセって具体的に何?

心理学では、「思考のクセ」は認知の歪み(cognitive distortion)と呼ばれています。これは、アメリカで精神科医として活躍したアーロン・T・ベック(1921-2021)によって定義され、物事の受け取り方や考え方に偏りが生じてしまうことを指します。

その偏りが強くなるほど、落ち込みや不安を強める要因になるのです。
まずは、アーロン・T・ベックによって定義された思考のクセ10パターンをご紹介します

 思考のクセ 偏った考え方の例
1.白黒思考(全か無か)完璧じゃなきゃ意味がない。0か100で評価
2.過度の一般化一度の失敗が繰り返し起こると思い込む
3.心のフィルターきっと私は嫌われているに違いない
4.マイナス化思考上手くいっても、たまたまだと考える
5.結論の飛躍どうせうまくいかないに違いない
6.拡大解釈・過小評価欠点を大きく捉え、長所を小さく捉える
7.感情的決めつけ不安な感情から悪い方に考える
8.すべき思考「~すべき」「~しなければ」と考える
9.レッテル貼り特定の行動でその人の価値を決めつける
10. 個人化悪いことが起きると自分のせいにする


これらは、心理療法などでよく取り上げられる代表的な「思考のクセ」です。
次の項目では詳しく紹介していきます。

1.白黒思考(全か無か)

完璧主義と同様に、ものごとに白黒をつけたがる思考です。
「完璧でないと意味がない」「少しでも間違えたらもう終わり」などと、極端な思考になっている為、自分を責めやすく、小さなミスや失敗も許せなくなります。また、柔軟な考えが出来なくなるのも大きな特徴です。

2.過度の一般化

一度起こった悪い出来事から、この先も同じようなことが繰り返し起こるだろうと考えてしまう思考です。「一度失敗したから、私はダメな人間だ」など、一つの出来事から全体を決めてしまいます。自信を失いやすく、未来を重く悲観するのも特徴です。

3.心のフィルター

過去の行動や言動から、偏った視点で物事を見るので、根拠のない不安が強まる思考です。「あの人はきっと私のことを嫌っているに違いない」などと、初めから決めつけてしまい、どんどん不安を大きくします。

4.マイナス化思考

成功体験もマイナスに考えてしまう思考です。うまくいったことも「これはたまたまだ」と考え、失敗すると、「やっぱり自分はダメなんだ」と物事を後ろ向きに考えてしまいます。どんどん自信をなくしてしまうのも特徴です。

5.結論の飛躍

事実とは違う結果を想像してして悪い方に決めつけてしまう思考で、二つのタイプがあります。

①心の読みすぎ

相手の考えていることを深読みしてしまう思考です。例えば、挨拶が返ってこなかった事実から、「自分は嫌われているからだ」などと思い込んでしまいます。相手の行動に対してネガティブな感情が膨らむので、相手との距離もなかなか縮まらないことがあります。

②先読みの誤り

この先に起こる出来事が「悪くなる」と決めつけてしまう思考です。起こってもいないことを、「きっとうまくいかない」などと予測し、あきらめてしまったり、なかなか行動に移せなくなってしまう思考です。

6.拡大解釈・過小評価

悪いことは大きく、良いことは小さく評価していまう思考です。成功したことには、「たいしたことはない、たまたまだ」などと過小評価し、失敗したことには「もう終わりだ」などと拡大解釈してしまいます。

7.感情的決めつけ

事実ではなく、自分の感情や先入観によって現実を結びつけてしまう思考です。今不安な気持ちだから、「失敗するかもしれない」、気分が落ち込んでいるから「こんな自分は価値がない」などと思い込んでしまいます。苦手なことや、やりたくないことから目を背けて先延ばしにすることもしばしば。

8.すべき思考

自分や相手に対して、「~すべき」「~しなければいけない」と考えてしまう思考です。自分や相手に厳しくしてしまうので、ルールで縛りつけてしまうことが多々あります。また、他人をコントロールしてしまうので、人間関係の悪化につながる可能性もあります。

9.レッテル貼り

その人の価値を、ある特定の行動や言動で決めつけてしまう思考です。私は行動が遅いから「いつも足を引っ張る人間だ」、あの人は早口だから「せっかちで落ち着きのない人だ」などと固定概念をもって見てしまいます。特に他人にレッテルを貼って決めつけてしまうことは、人間関係において悪い影響を起こすこともあります。

10. 個人化

責任を過度に背負ってしまう思考です。何の根拠もないのに自分のせいだと思い込みやすく、自分を責め続けてしまいます。他人の行動で起こった出来事も自分の責任にしてしまうので、ストレスを感じやすく、精神的なダメージも受けやすいのが特徴です。

これらの思考は「自動思考」と呼ばれており、同じような出来事に遭遇した時、反射的に頭に浮かぶ思考のことです。

では、なぜこのような自動思考が生まれるのでしょうか?

思考のクセが生まれる3つの原因

1.脳の「効率化」によるもの

人間の脳は、日々膨大な情報を受けています。これらの情報を素早く処理するために、経験に基づいた法則やパターンを使って効率化しています。この仕組みは処理の速さだけでいえば効率的ではありますが、偏りや早とちりなどを生み出します。

例えば、「あの時、これをやって注意された」という経験が強く残っている場合、脳は似たような状況に出会うと「あの時のように注意される」と自動的に関連付けます。そうすると、過剰に意識してしまったり、警戒してしまうのです。その結果、行動を避けてしまったり、自分を責めてしまう思考になってしまいます。

こうした過去の学習(条件付け)が偏った思考の基盤になるのです。

2.環境や発達による影響

実は、幼少期の家庭環境や学生生活での経験が思考のクセに大きく影響している可能性があります。
完璧主義の親に育てられた場合、完璧じゃないと褒めてもらえなかった経験があると、白黒思考になる可能性が大きくなります。

例:
失敗したことでひどく怒られた → 失敗しないように回避行動を取るようになる
親の機嫌を取ることで物事がうまくいった → 顔色をうかがって心のフィルターをかけてしまう

このような社会的経験が「ものの見方」を決めるのです。

3.思考と感情の作用

思考と感情は結びつきやすく、双方に影響し合います。不安や、怒りなどの比較的強い感情が現れると、その感情と考えを裏付けるような出来事や情報を集めてしまいます。また、反対意見があると抵抗感を持つことや、自分に都合が悪いものは避けようとするので、偏った思考になってしまうのもこの作用が働いているからです。

思考のクセを治すには?

それでは一体、どのような行動を心がければ、思考のクセは治るのでしょうか?
順番に説明していきます。

STEP1.思考のクセに気づく

思考のクセを治す方法はとても難しく、冒頭でもお伝えしたように「思考のクセ」は脳の自然な働きの一部です。そのことをもう一度踏まえたうえでの第一歩は、思考のクセに気づくことです。
この記事をご覧になっているあなたは、その第一歩めに立っています。まずは自分自身が気づくことができれば、思考の修正や改善に近づきます。

STEP2.事実と予測を切り分ける

先述の思考のクセ10パターンを見ても分かるように、ほとんどの思考の偏りが「予測」にあたります。自分の中の予測によって不安を感じることが多くなっているのが明確です。思考のクセに気づいた次のステップは、「事実と予測を切り分ける」ことです。
思考のクセがあると、過去の出来事から勝手に脳が予測した思考が頭をよぎります。しかし、それは事実ではないのです。ぜひ一旦立ち止まって、「これは事実か?それとも思考の偏りか?」を考えてみましょう。

STEP3.過去の出来事から異なるデータを思い返す。

脳は過去に起きた出来事から予測を図ります。しかし、それは100%当たっていたのでしょうか?よく思い出してみてください。

「失敗したから、きっと怒られるだろう」→「今日は怒られなかった!」こんな経験はありませんか?

脳は相手の気持ちや考えまでを知ることはできません。これらを予測して、確実に当てるのは不可能なのです。そう考えると、脳のデータは当てにならないと、思いませんか?

筆者も思考のクセを感じることが多く、改善する方法を探しているときに「脳のデータ」も当てにならないことはあるのだと知りました。過去の出来事は、明日からの行動や考えの変化で変えることが出来ます。すなわち、良い方向に考えることができれば、そのデータが未来に生きるのです。

まとめ

この記事では、思考のクセについて書いてきました。思考のクセを無くすのは容易ではありませんが、以下の3つのポイントを意識してみてください。

  • 思考のクセに気づく
  • 事実を予測(憶測)を切り分ける
  • 例外を思い返す

思考のクセは誰にでもある、ごく自然な脳の仕組みです。

しかし、限度を超えてしまうと自分を苦しめるだけでなく、日常生活や対人関係にも大きく影響してしまいます。まずは自分自身の思考パターンを知ることから始め、柔軟な考えを取り入れていくことで、改善していくことが可能です。
思考のクセが強くなってしまうと、視野が狭くなってしまいます。一度立ち止まって、「本当にそうだろうか?」と自問自答してみることが大切です。

毎日、少しずつ心を軽くしていくことを心がけてみましょう。




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